「ドアに点のような塗装の欠けがある。売る前にタッチペンでちょんと塗っておけば、査定で気づかれないのでは」——車の売却を決めたあと、ボディをあらためて眺めると、それまで気にしていなかった小さな傷が目に入ってきます。カー用品店で手に入るタッチペンは手軽なので、査定の前にひと塗りしておくべきか迷うところです。
先に結論を書きます。タッチペンで塗ったからといって、査定額が上がることはほとんどありません。査定士は補修跡を見分けられるため、「傷が無かったこと」にはならないからです。一方で、下地の金属が見えている小さな欠けを、サビを防ぐ目的で点状に埋めるだけなら、マイナスになることも少ないでしょう。線傷や広い範囲を塗って隠そうとするのは、かえって仕上がりの粗さが目立ち、評価を下げる方向に働きかねません。塗るかどうかは、傷の大きさと目的で線を引くのが基本です。
査定士はタッチペンの跡を見分けている#
タッチペンは、純正の色に合わせた塗料を筆やペン先で傷に乗せる補修方法です。手軽ですが、工場で塗られた塗装のように平らに仕上がるわけではありません。塗った部分は周囲よりわずかに盛り上がり、光の当て方によっては色味や艶の違いも出ます。
査定士は、外装を見るときに光を斜めから当てたり、角度を変えたりしながら塗装面を確認します。この方法で見ると、タッチペンの跡は「補修した小傷」としてほぼ把握されます。傷が見つからなかったことにはならず、「小傷があり、簡易な補修がされている」という状態として記録されるのが実際のところです。
したがって、塗る目的を「査定士に気づかれないようにする」に置くと、期待どおりの結果にはなりにくいと考えておいたほうがよいでしょう。
それでも塗って問題が起きにくい傷#
では、タッチペンはまったく意味がないのかというと、そうではありません。塗って問題が起きにくいのは、次のような傷です。
- 飛び石などで塗装が点状に欠け、下地の金属や灰色の下塗りが見えている
- 傷の大きさが米粒程度までで、へこみを伴っていない
- ドアエッジやボンネット先端など、放っておくとサビが出やすい場所にある
こうした欠けは、放置すると雨水が入ってサビに進むことがあります。タッチペンの本来の役目は、傷を消すことではなく、下地を覆ってサビの進行を止めることです。査定で見ても「サビを防ぐために塗ってある」という範囲なら、塗ったこと自体が減点につながることはあまりありません。
逆にいえば、下地が見えていない浅い擦り傷や、クリア層だけがかすれたような傷は、塗料を乗せる理由がありません。塗ると周りとの差のほうが目立ってしまいます。
塗らないほうがいい傷と塗り方#
タッチペンで手を入れると、かえって評価を下げやすいのは次のような場合です。
線状に長く伸びた傷を、筆でなぞって塗る。ドアの引っかき傷やバンパーの擦り傷を線で塗ると、塗料の盛り上がりが連続して目立ちます。遠目には「傷を隠そうとした跡」として見えやすく、補修前よりも手を入れる必要がある状態と判断されることがあります。
へこみを伴う傷に塗る。塗料で色は戻っても、へこみは残ります。査定ではへこみの修理が必要と見られ、塗ってあることで板金の工程がひとつ増えると判断されることもあります。
色番号を確認せずに「近い色」で塗る。同じ白やシルバーでも、車種や年式で塗色は細かく分かれています。色番号が合わない塗料を乗せると、色の違いがはっきり出て、補修跡が目立ちます。
バンパーなど樹脂部品の広い擦り傷に塗る。バンパーの擦り傷は面で付くことが多く、タッチペンの点塗りでは埋まりません。塗ってもざらついた仕上がりになりやすい部分です。
こうした傷は、タッチペンで隠すよりも、そのままの状態で査定を受けるほうが結果は安定します。ホイールのガリ傷で、修理の仕上がりがかえって目立つことがあるのと同じ考え方です(ホイールのガリ傷は査定に響く?)。
やるなら押さえておきたい手順#
サビ止めの範囲でタッチペンを使うなら、次の点を押さえておくと失敗しにくくなります。
- 車の色番号(カラーナンバー)を確認する。運転席側のドア付近やエンジンルームにある表示板に記載されていることが多く、取扱説明書でも場所を確認できます
- 塗る前に、傷のまわりの汚れと油分を落として乾かす
- 筆やペン先で傷の中にだけ、少量を点で置く。盛り上がりが気になっても、一度に厚く乗せない
- 塗料が乾くまで洗車や雨を避ける。乾燥時間は製品の説明書に従う
- 塗った場所は、査定のときに「飛び石の欠けをタッチペンで埋めてある」と伝える
4の乾燥時間と、重ね塗りの可否は製品ごとに違います。説明書を読まずに進めると、乾く前に触ってしまい、かえって跡を広げることがあります。
塗ったあとに周囲まで含めて磨いて平らにする、いわゆる研磨の工程は、ここでは無理にやらないほうが無難です。塗装面を削りすぎる失敗は、ボディコーティングの記事で書いたのと同じ理由で起こります(ボディコーティングは査定でプラスになる?)。
注意点①:塗ったことは隠さず伝える#
タッチペンで塗った部分は、査定士に見つかる前提で考えておきましょう。自分から「ここは飛び石の欠けを塗ってある」と伝えておけば、「補修跡を隠そうとした」と受け取られることがなくなり、話がこじれません。
申告と実際の状態が違った場合に、契約後の金額を見直す条項が入っている買取契約もあります。小傷の補修でそこまで問題になることは多くありませんが、傷や補修の有無は先に伝えておくのが基本です。契約後に減額を求められたときの考え方は車の買取で契約後に減額されたときはどうする?で整理しています。
注意点②:査定を取ってから手を入れる順番でもよい#
傷が気になって落ち着かないなら、先に査定を受けて「傷ありの状態でいくらか」を知ってしまうのも手です。小傷が金額にほとんど影響していないことが分かれば、塗るかどうかで悩む時間そのものが要らなくなります。
査定前の準備で効果が出やすいのは、タッチペンよりも洗車と車内清掃です。砂ぼこりや水垢を落として塗装の状態を正しく見せることが、「手入れされた個体」という第一印象につながります(車を少しでも高く売るコツ5つ)。
まとめ:タッチペンは「サビ止め」まで、隠す目的では使わない#
タッチペンで小傷を塗っても、査定士には補修跡として見分けられるため、査定額が上がることはほとんどありません。使ってよいのは、下地が見えた点状の欠けをサビから守る範囲までです。線傷やへこみ、色番号の合わない塗料で隠そうとするのは、かえって評価を下げる方向に働きます。
やることは3つです。塗るなら色番号を確認し、傷の中にだけ少量を置く。塗った場所は査定のときに自分から伝える。線傷や広い擦り傷は、手を入れずにそのまま査定を受ける。傷を消す努力より、傷ありの値段を複数の店で比べることのほうが、手元に残るお金には効いてきます。